戦場の性 独ソ戦下のドイツ兵と女性たち

第二次世界大戦中の,ドイツ兵と旧ソ連地域の女性たちとの性的接触を,レイプから恋愛まで立体的に描き出す.

戦場の性 独ソ戦下のドイツ兵と女性たち
著者 レギーナ・ミュールホイザー , 姫岡 とし子 監訳
ジャンル 書籍 > 単行本 > 歴史
刊行日 2015/12/15
ISBN 9784000610841
Cコード 0022
体裁 A5 ・ 364頁
在庫 品切れ
第二次世界大戦中の独ソ戦における,ドイツ兵と旧ソ連地域の女性たちとの性的接触は,残虐なレイプをはじめとする性暴力から,売買春・「合意の関係」・恋愛・婚姻にいたるまで多面的なものだった.さまざまな資料を駆使して戦場における性と権力を一連の流れのなかで描き出し,日本の「従軍慰安婦」問題への貴重な参照点を提供する.


■著者からのメッセージ
 近年日本から伝わってくるような出来事は,現在のドイツではほとんど考えられない.すなわち,2013年12月に安倍晋三内閣が行ったような,政府閣僚が有名な戦犯のまつられている神社を公式参拝すること,2013年5月に橋下徹大阪市長について報道されたような,大都市の市長が記者会見の席上で,戦争には「慰安婦」制度のようなものが付きものだとして,それを容認すること,〔……〕といった事柄である.ドイツでは現在,歴史的な罪が自己理解の一部となっており,毎年ナチの犠牲者を想起する式典が開催されることは,当然視されている.しかし,それがそのまま犠牲者への適切な対応につながっているわけではない.たとえば連邦政府は,大量虐殺の生存者に対する賠償支払い要求に応じる意志はないと言明した.そして2000年の東京の女性国際戦犯法廷でテーマとなった性暴力と性奴隷化に関するドイツの社会的取り組みは非常に遅々としていることを確認しておかなければならない.ましてや,国家による謝罪と賠償金の支払いについては,まったく問題になっていないのである.〔……〕
 この書物の日本語版の出版にあたって意義があるのは,ドイツと日本の歴史的な出来事を比較することである.どの点において,ドイツ軍兵士と親衛隊員の性行動は,日本軍兵士の行動に似ていたのか.それぞれの軍指導部の性政策は,どのようなものであったのか.さらに,軍事的あるいは文化的に規定された類似性または相違について語ることはできるのか.〔……〕
 このような形態の暴力を脱神話化し,起こった事柄,その状況や力学,またそれぞれの事柄の,それ以前と以降の歴史ときちんと向き合う用意がある場合にのみ,性暴力の原因を理解し,その行使を抑制し,免責という事態を実際になくし,被害を受けた人たちを正当に扱うことができるのである.
(「日本語版への序文」より)
日本語版への序文

略語一覧/独ソ戦の概略/国防軍と親衛隊

第一章 本書の視角
独ソ戦下の性に関する研究状況
史料
男らしさのイメージ
戦地での身体的体験/男性同士の結びつき/セクシュアリティとの向き合い方/指導部の性に関する見解と対応/沈黙された性的体験/性的体験に関する語りの登場――「清潔な国防軍」神話の崩壊
女らしさのイメージ
女性による語り――「性的な無実」への圧力/女性たちの性体験への社会的評価/ユダヤ人女性への性暴力のテーマ化/レイプの語りのスクリプト
子どもたち
《国防軍兵士の個人的な写真 第I部》

第二章 性暴力
戦争と性暴力
征服と性
ユダヤ人女性の性的征服/集団レイプ/陵辱された遺体の写真/戦時の日常/パルチザン掃討/武装した女性の扱い/「女性スパイ」への性暴力/「最終解決」/ゲットーの日常/ユダヤ人女性との性的接触と殺害/大量虐殺時の性暴力
軍隊の性規律

第三章 取引としての性
場あたり的な取引
売買春
ソ連の政治体制と売買春/ドイツ軍の侵攻と売買春
「疑わしい」女性たちの取り締まり
「もぐり売春」の管理/疑わしい女性の検査
管理される兵士の性
兵士の性と軍事政策/性的接触と軍事的リスク/教育指導/「消毒」/治療/尋問/処罰
親衛隊員への訴えかけ
人種意識と性病予防教育/衛生教育のための管理措置
国防軍用売春施設
管理売春施設の設置/売買春システムの構築/売春施設設置の理由と場所の選定 /女性たちの確保/女性たちの医学的な監視/軍事的序列と男性同盟/利用者の国籍/利用者の品格/売春施設の医学的効用

第四章 合意の上での関係
男たちの平時への渇望
ソ連女性のイメージ/戯れの恋愛/兵士としての日常と故郷の大切な人たち/戦争と占領下の日常
女たちの新しい経験への憧れ
ドイツ兵の魅力/ドイツ兵との関係/敵兵との関係
国防軍による規制
現地女性との交際の危険性/兵士に対する行動規則/兵士に対する啓発と教育
親衛隊の指針
親衛隊員の性的接触の扱い/誰が「異人種」なのか
結婚の許可申請に関する交渉
人種政策と結婚/現地当局の見解/評価の基準――「人種」と「民族性」/行動の余地
敗北のレトリック
《国防軍兵士の個人的な写真 第II部》

第五章 占領下ドイツ兵の子どもたち
血の純血と人口政策
東部地域でのドイツ兵の子どもの出生予測/北方民族の出生率の均衡/東部の人口過剰/「ドイツ人の血」の特定/血の概念の精緻化/ドイツ人の血を引く子どもたちの扱い
子どもたちの人種基準
ドイツ兵の子どもたちの養育に関する総統命令/登録/「人種的選別」/父親を突き止める/母親と子どもの地位

結論――戦時および戦後におけるセクシュアリティとジェンダー秩序

訳者あとがき
注/訳注/文献リスト
レギーナ・ミュールホイザー(Regina Muhlhauser)
1971 年生まれ.ハンブルク大学で歴史学・近代ドイツ文学・韓国学を学び,ケルン大学より博士号取得(歴史学).専門は歴史学・ジェンダー史.現在,ハンブルク社会研究所プロジェクト研究員.最初の著書となる本書で,オファーマン=ヘルガルテン賞ほか,ドイツ国内のさまざまな賞を受賞した.

姫岡とし子(ひめおか としこ)
1950 年生まれ.専門はドイツ近現代史・ジェンダー史.著書に『ジェンダー化する社会』,『ヨーロッパの家族史』,『歴史を読み替える』ほか.

石井香江(いしい かえ)
1972 年生まれ.専門は歴史社会学・ジェンダー史.

小野寺拓也(おのでら たくや)
1975 年生まれ.専門はドイツ現代史(ナチズム).

水戸部由枝(みとべ よしえ)
1968 年生まれ.専門はドイツ近現代史・セクシュアリティ史.

若林美佐知(わかばやし みさち)
1962 年生まれ.専門はドイツ現代史.
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