さとやま
生物多様性と生態系模様
多様な角度から描く,さとやまの現在・過去・未来.
著者 | 鷲谷 いづみ 著 |
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通し番号 | ジュニア新書 686 |
ジャンル | 書籍 > 岩波ジュニア新書 > 生物・化学・環境 |
シリーズ | 岩波ジュニア新書〈知の航海〉シリーズ |
刊行日 | 2011/06/21 |
ISBN | 9784005006861 |
Cコード | 0245 |
体裁 | 新書 ・ 並製 ・ カバー ・ 206頁 |
在庫 | 在庫あり |
ヒトによる適度で多様な自然の利用と管理によって維持され,多様な生きものたちを育んできた豊かな「さとやま」.なぜいま消滅の危機にさられているのでしょう.古代遺跡や万葉集をたどりながら人類誕生からその成立の過程を考え,再生の試みを紹介.さとやまの現在・過去・未来を描きます.美しいカラー口絵を掲載.
■内容紹介
「萩(はぎ)の花尾花(おばな,ススキのこと)葛花(くずばな)瞿麦(なでしこ)の花女郎花(おみなえし)また藤袴(ふじばかま)朝貌(あさがお,いまのキキョウのこと)の花」――.これは,万葉歌人の山上憶良が秋の七草を詠んだ歌です.みなさんは,このうち,いくつの花を思い描くことができますか.こうした野草は,千年以上前の万葉の歌人だけでなく,何十年か前の人々にとっても,ごく身近な存在でした.しかし,いまではその多くがめったに見られない希少な植物となってしまいました.これは昆虫やカエルでも同じことです.なぜそんなことが起こっているのでしょうか.そのひみつは「さとやま」にあります.かつて人々は,自然の恩恵をうまく利用し,適度に手を入れながら,暮らしを営んできました.そうして形成される半自然が「さとやま」です.さとやまを空から見ると,屋敷林や雑木林,田んぼやため池,茅場などが,まるでパッチワークのような模様を描いています.その模様は,生きものたちにとっては複雑で多様な環境となり,多くの種にすみかを提供してきました.いま,そのさとやまの衰退とともに,多くの生きものたちが消えようとしているのです.この本では,さとやまの歴史を人類の誕生からたどりつつ,生態学はもちろんのこと,文化的な面からも広くその価値を考えます.そして,各地ではじまった再生の取り組みを紹介し,さとやまの未来を考えます.いまこの時代に,さとやまとそこに暮らす生きものたちをどうやって取り戻すことができるのか,一緒に考えてみませんか.
日本の科学者集団を代表する日本学術会議は,中学生にも理解できる水準とやさしい表現で学術の先端的な情報を提供し,若い読者の学術への関心を呼びおこすことを,重要な任務のひとつとしています.岩波ジュニア新書のサブ・シリーズとして刊行する〈知の航海〉シリーズは,おもな読者層として中学生,高校生を想定して,日本学術会議が贈る「学術への招待状」です.
序章 サクラソウから見たさとやまの変化
第1章 ヒトの歴史とさとやまの成立
第2章 「さとやま」の生物多様性と生態系模様
第3章 地球規模の生物多様性とさとやまの危機
第4章 さとやまの再生――持続可能な地域社会にむけて
おわりに
1950年東京生まれ.東京大学大学院農学生命科学研究科教授.日本学術会議会員.専門は生態学・保全生態学.現在は,生物多様性保全に関する幅広い研究をおこなっている.著書に『〈生物多様性〉入門』(岩波ブックレット),『にっぽん自然再生紀行』(岩波科学ライブラリー),『天と地と人の間で――生態学から広がる世界』(岩波書店),『サクラソウの目――保全生態学とはなにか』(地人書館),『絵でわかる生態系のしくみ』(講談社),『現代生物科学入門6 地球環境と保全生物学』(共著,岩波書店)など多数.
書評情報
東京新聞(朝刊) 2011年8月1日