昭和の政党

戦前の政党政治は,なぜ戦争とファシズムに抗し得なかったか.昭和政治史を学ぶ最良のテキスト.

昭和の政党
著者 粟屋 憲太郎
通し番号 学術188
ジャンル 書籍 > 岩波現代文庫 > 学術
日本十進分類 > 歴史/地理
刊行日 2007/11/16
ISBN 9784006001889
Cコード 0121
体裁 A6 ・ 並製 ・ カバー ・ 464頁
在庫 品切れ
政友会,民政党の2大政党が牽引する戦前の政党政治はなぜ凋落し,戦争の時代に無力であったのか.選挙と金,地域での党勢拡張,政党不信など戦後に継続する問題群はいかに作られていったのか.政党政治の隆盛期から大政翼賛会に至る蹉跌と自壊まで,多彩な主題を分析し戦前政党の可能性と限界を明らかにする.


■内容紹介
 (2007年)11月2日,福田首相は民主党の小沢代表と会談し,自民,公明両党と民主党による連立政権樹立に向けた政策協議を始めることを提案しましたが,民主党の役員会で連立協議は受諾できないことが確認され,トップ会談は決裂しました.その後の小沢代表の辞意表明,辞意撤回というめまぐるしいニュースを皆様はどのような思いで受けとめられたでしょうか.「一寸先は闇」の政界ですが,この先も衆参の「ねじれ現象」の下で日本の政治がどう変容していくか,政党が存在感を発揮できるか否かについては目が離せません.
 明治期,自由民権運動の頃から日本の政党の歴史は始まりますが,政友会,民政党が牽引する政党政治が大正から昭和へと花開きながら,後に主要政党が解散して1940(昭和15)年に大政翼賛会が発足することは,昭和史の画期として重大な意味を有しています.昭和初年以降のテロの活発化,十五年戦争の進行の中で,いつしか政党政治の影は薄れて,政党の求心力は低下していったことをどう理解したらよいのでしょうか.戦前政党政治は外的な要因だけで崩壊を余儀なくされたのでしょうか.戦争の時代に抗うことは不可能だったのでしょうか.
 本書の冒頭に,斎藤隆夫という著名な代議士が登場します.民政党代議士として兵庫県の但馬地方から選出されてきましたが,議会内で気骨ある政治活動を続け,体制順応主義に組み込まれることはありませんでした.とりわけ,1936年の「粛軍演説」と1940年の「反軍演説」はきわめて著名です.後者の演説は日中戦争を「聖戦」として飾り立てる政府を批判し,国民に戦争の目的さえ浸透しない現状を暴露するものでしたから,斎藤はこの演説を理由に議会を除名されるのです.しかしながら斎藤を支持する民衆は,全国から励ましの手紙を送り,後に翼賛選挙の非推薦候補として斎藤は議会への復帰を果たすのです.
 本書は激動の昭和史において,政党とはどんな実像を持っていたのか,個々の政治家たちは地域で有権者の支持をいかに調達し政治家としての存在感を高めていったのかをいきいきと描き出します.角度を変えて申し上げれば,戦前の政党内閣の隆盛と崩壊,政党の凋落と解消,戦後の政党の再結成のプロセスを時系列的のみに探求することに終始している本ではありません.
 政治家一人一人の顔が見えてくるような歴史叙述を通して,政治構造論的な視角も重視して考察しているところに本書の特長があります.選挙と金,軍部と政党,官僚と財閥,地方的利益の誘導,政友会と民政党の相違,対外政策,既成政党批判など,戦後政治史にも通底しうる主題も含めて膨大な先行研究,参考文献,史料,証言等に依拠しつつ,一冊にまとめているという点で価値が高い本だと思われます.
 斎藤隆夫を除名した帝国議会は,時をおかず様相を一変します.政党が自ら解党して新体制運動になだれ込み,議会政治は「崩壊」への一途をたどっていくのです.そこから私たちはどのような教訓をくみとっていったらよいのでしょうか.本書は戦前期の政党政治を主題にしながら,現代の政党政治,議会,政治状況を考察する上での無数のヒントが隠されています.
 本書の叙述は平明であり,写真等も多く一般読者にとっても実に読みやすい書物になっていますので,ぜひご一読ください.

 本書は小学館「昭和の歴史(6)」として1983年3月に上梓され88年に小学館ライブラリー版として刊行されました.なお,本書で取りあげている斎藤隆夫については,岩波現代文庫から松本健一『評伝 斎藤隆夫』も刊行されていますので,ご参照いただければ幸いです.
○政党政治家と国民

○没落期の政党政治
幻の総選挙/既成政党への不信/「憲政の常道」の現実

○政党内閣と特権勢力
元老と政党/衆議院と貴族院/枢密院改革問題/軍部と政党

○政策対立の現実
二大政党の看板政策/経済政策と外交政策/張作霖爆殺事件と政党/治安対策と社会政策

○選挙と党略
普通選挙法の影/「勝つは官軍」/選挙と金/無産政党と小会派の戦績

○政友会と民政党
政友会の世界/民政党の内紛/政党と財閥/院外団・政党・機関紙

○政党と地方政治構造
政党の地方政策/地方議会の動向と選挙/政党地方支部と地方政情/地方的利益と党勢拡張/無産政党の地方議会進出と軍部

○危機における政党政治
危機の諸相/もう一つの三月事件/満州事変と政党/十月事件と協力内閣運動/五・一五事件と政党内閣崩壊

○政党政治の凋落
挙国一致内閣/翼賛議会への道程/選挙粛正運動と総選挙/「政党の更生」と「財閥の転向」/地方政治構造の変容

○政党解消
「粛軍演説」の反響/宇垣内閣流産と食い逃げ解散/日中戦争下の政党再編成/斎藤隆夫除名問題/新体制運動と政党解消

○戦中から戦後へ
翼賛選挙/翼賛政治会から大日本政治会へ/鳩山一郎と同交会/戦後政党政治の開幕
粟屋憲太郎(あわや・けんたろう)
1944年千葉県生まれ.東京大学大学院人文科学研究科国史専攻博士課程中退.現在,立教大学文学部教授.日本近現代史.主著『東京裁判への道』上・下(講談社選書メチエ)『東京裁判論』『十五年戦争期の政治と社会』(大月書店)『未決の戦争責任』(柏書房).東京裁判研究の第一人者として著名です.

書評情報

週刊エコノミスト 2012年9月11日号
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