日本の鶯

堀口大學聞書き

ローランサン,コクトー,アポリネールらと親交を結んだ大詩人が最晩年に回想した恋と文学と人生の来し方.(解説=丸谷才一)

日本の鶯
著者 関 容子
通し番号 文芸181
ジャンル 書籍 > 岩波現代文庫 > 文芸
日本十進分類 > 文学
刊行日 2010/12/16
ISBN 9784006021818
Cコード 0195
体裁 A6 ・ 並製 ・ カバー ・ 420頁
在庫 品切れ
マリー・ローランサンは,なぜ堀口を「日本の鶯」と呼んだのか.コクトー,アポリネール,佐藤春夫,永井荷風ら忘れえぬ人との出会いと別れ.本書は,近代フランス詩の紹介で昭和の文学に絶大な影響を与えた大詩人堀口大學の最晩年に行われた聞書き.老詩人がエスプリあふれる言葉で,恋と文学と人生の来し方を語る.(解説=丸谷才一)


■編集部からのメッセージ
 堀口大學という詩人のことをご存知でしょうか.昭和の文学史においては忘れられない存在です.本書はこの大詩人が,自らの恋と文学と人生を最晩年に回想した,きわめて興味深い聞取りです.
 堀口大學(1892-1981)は,吉井勇の短歌に傾倒し,与謝野寛・晶子夫妻に師事して新詩社に入門し,慶應義塾大学では永井荷風に学び,終生の友・佐藤春夫と出会いました.19歳の夏に,外交官であった父の任地メキシコに赴くために,大学を中退.以後,結核の療養につとめながら,フランス,ベルギー,スペイン,スイス等の欧州諸国と日本との間を往復しながら過ごしました.
 特筆すべきは,堀口大學を「日本の鶯」と呼んで愛したマリー・ローランサンをはじめとして,ジャン・コクトー,ギヨーム・アポリネールらと親交を結びながら,『月下の一群』をはじめとした斬新な訳文による詩集を日本の読者に提供したことです.
人は見ね
人こそ知らね
ありなしの
われは匂ひぞ
風のもて来し!
(ポオル・ヴァレリイ「風神」)

 フランス語から美しい日本語を生み出した訳者の系譜において,堀口大學以前にも中江兆民,黒岩涙香,永井荷風らが存在していましたが,『月下の一群』は昭和期の芸術感覚を一新させていくだけの衝撃を持ちました(松岡正剛『千夜千冊』参照).堀口による近代フランス詩・シュールレアリスム詩の紹介は,昭和の新文学に強い影響を与えたのです.
 処女詩集『月光とピエロ』,処女歌集『パンの笛』を刊行後,詩集,歌集,翻訳以外にも評論,エッセイ,随筆と多彩な執筆活動を行い,その著訳書は三百点以上に達しています.
 本書では,最晩年の堀口大學の肉声が,全十五回の聞き取りを的確にまとめることによって再現されています.とりわけ若き日の最も輝かしい時代についての秘話が,エスプリあふれる言葉で魅惑的に語られます.恋と文学と人生についての大詩人の回想は,いまでは生き証人が絶えてしまった時代の証言,忘れえぬ芸術家たちの回想としても,一読に値するものと思われます.
 丸谷才一さんに力のこもった解説をご執筆いただきました.和田誠さんが素晴らしい表紙の絵を描いてくださいました.
 本書は1980年に角川書店から刊行され(日本エッセイストクラブ賞受賞),84年に講談社文庫に収められましたが,ぜひ今回ご一読いただきたいと思います.
序  堀口大學
第一章 現役の詩人
第二章 陶印譚
第三章 若き二十の頃なれや
第四章 詩人と酒
第五章 山中湖にて
第六章 ジャン・コクトーのこと
第七章 マリー
第八章 ギヨーム・アポリネールのこと
第九章 子供のときから作文が得意
第十章 盗む
第十一章 春の夜の夢
第十二章 第一書房主人
第十三章 ある銅版画家の思い出
第十四章 女たち
第十五章 ズズのことなど
あとがき
岩波現代文庫版あとがき
解説  丸谷才一
関 容子(せき ようこ)
エッセイスト.東京生まれ.日本女子大学国文科卒業.81年,本書で日本エッセイストクラブ賞受賞.その後,歌舞伎エッセイにおいて『花の脇役』(新潮社)で96年,講談社エッセイ賞.『芸づくし忠臣蔵』(文藝春秋)で2000年,芸術選奨文部大臣賞,読売文学賞を受賞.著書に『中村勘三郎楽屋ばなし』『役者は勘九郎――中村屋三代』『海老蔵そして團十郎』(以上,文藝春秋)『虹の脇役』(新潮社)他がある.

書評情報

朝日新聞(朝刊) 2015年7月26日
美しいキモノ 2011年夏号(2011年5月)
東京新聞(朝刊) 2011年2月6日
読売新聞(夕刊) 2011年1月31日
京都新聞(朝刊) 2011年1月23日
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